僕は自他共に認めるボクシングファンなのですが、2018年9月16日(米国現地時間9月15日)に行われた世界ミドル級タイトルマッチ(ゲンナディ・G・ゴロフキンvs A・カネロ・アルバレス)を観て、大興奮の後に来たある種の喪失感に苛まれました。そしていま、その喪失感を超えて、新たな戦いに向かう闘志をみなぎらせていることを報告します。

ようやく金を稼げるチャンスを得た苦労人チャンプと、人気抜群の若きスターの激突

ご存じの方は多いかもしれませんが、この試合、まず1年前に行われた世紀の一戦が引き分けで終わったゆえの再戦です。1年前の試合も僕はTVの生中継を観ていましたが、結果としては引き分けに終わったとはいえ、僕自身の感想としてはチャンピオンのゴロフキンが挑戦者のアルバレスを圧倒した、つまりゴロフキンが勝っていたというものでした。

その頭文字からGGG(トリプルG)というニックネームで知られるゴロフキンは、それまで38勝(34KO)無敗でミドル級王座もすでに連続20回防衛という世界記録(タイ)を持つ絶対王者。年齢こそ36歳(1982年4月8日生まれ)となって、強さのピークは過ぎていると思われましたが、それでもその強さは折り紙つきでした。
ただ、カザフスタン出身であるということ、そして強過ぎてライバルがいなかったことから、なかなか良い相手(つまり金になるスーパーファイトの対戦相手)が現れず、その実績からするとあまり稼げていない、ある意味強すぎるがゆえの不遇をかこっていたチャンピオンでした。

対するサウル・カネロ・アルバレスは、そのヘアカラーからシナモンの意味のスペイン語”カネロ”という愛称を持っているメキシコ出身の28歳(1990年7月18日生まれ)のボクサー。外連味ない真っ向勝負のファイトスタイルと、ハリウッドスターのマット・デイモン似の容貌からメキシコのみならず世界的に人気の高いスター選手です。

もともとカネロはウェルター(63.503 - 66.678kg)〜スーパーウェルター級(66.678 - 69.853kg)で戦ってきており、その戦績で唯一の敗戦となったのは2013年9月に当時のスーパーウェルター級無敗王者フロイド・メイウェザー・Jr. に挑戦し、判定負けした試合だけ。若さに任せて真っ向勝負をしかけたカネロは、メイウェザーの老練なテクニックに翻弄され、なすすべなく敗れましたが、これが契機になって、パワーとスピードだけに頼った戦い方から、相手を研究して戦略を練って戦う、よりクレバーなスタイルへとカネロは進化しました。

人気という意味では世界的になったカネロでしたが、メイウェザーに敗れ、彼が無敗のまま引退してしまって以来、やはり人気だけでなく実績としても超一流であることを証明したいと思ったのでしょう、もはや相手のいないスーパーウェルター級から階級をあげて、ミドル級(69.853 - 72.575kg)へと進出しました。ミドル級にはメイウェザー同様、いえ、巧さではなく、強さという点で誰もが認める正真正銘の強者がいたからです。

そう、その強者こそがゴロフキン。メイウェザーは常に勝者ではあったけれど、無敗記録を守ることと金を稼ぐことに執着するあまり、強い相手と戦うとか、相手をぶちのめす、という格闘技を愛する男たちが願うシンプルな意志や強さに欠けるところがありました。言ってみれば賢過ぎて、安全運転しすぎる印象があったのですが、ゴロフキンは逆に常に相手を殺さんばかりの殺気と迫力を持って戦うし、実際KO率90%近い怪物ボクサーです。真っ向勝負で人気を博したカネロからしたら、超強敵、難敵には違いないけれど、メイウェザーと比べればはるかに噛み合うし、彼に勝てれば正真正銘のスーパースターになれるというものです。

ゴロフキンからしても、自分を倒せるかもしれないほど強い相手とでなければ、観客を呼ぶ試合=スーパーファイトができない。米国の巨大会場でPPV(ペイパービュー)で世界のファンに視聴してもらえるような試合をしなければ、大金を稼げない。リスクを張ってボクサーをやっているのです、引退後も悠々自適に暮らせる金を稼がなくては意味がないというものです。だから、ゴロフキンにとってもカネロと戦うことには十二分の意義があったわけです。

そういった互いの思惑が噛み合って、両者は2017年9月に激突し、上述のように両者痛み分け、という結果になりました。ただ、ゴロフキンからすれば連勝記録を止められてしまい、カネロからすればお情けで引き分け裁定をしてもらったかのような印象をファンに与えてしまった。やはり再戦は不可避だったわけです。

そこで第1戦からほぼ1年経った2018年9月16日(現地時間2018年9月15日)、両者は再戦することになりました。試合経過は以下の記事をご覧いただきたいと思いますが、結果としては、カネロが2-0の判定勝ちを納め、長く続いたゴロフキン時代に終りを告げたのです。

ピークアウトに向かう者とピークに達しようとする者のすれ違い・・・?

前回の、第1戦については、僕自身はゴロフキンの勝ちであったと感じた、と書きました。
しかし、第2戦(再戦)については、どちらに転んでもおかしくはないクロスゲームであったとは思いますが、それでもカネロ・アルバレスの勝利が告げられた時は納得せざるを得ませんでした。

おそらく初戦においてゴロフキン本人も”勝っていた”と思ったのでしょう。もう少し最後まで攻めきっていたら引き分けにされることもなかった、と考えたに違いありません。実際、初戦では(下の階級から上がってきた)アルバレスは、ナチュラルボーンのミドル級であるゴロフキンのパワーに押し込まれ、ロープに詰められることが多かった。ゴロフキンからすればカネロをパワーでもスピードでも、そしてテクニックでも圧倒できると思っていたはずです。

しかし、誤算は、初戦から再戦までに1年過ぎていることをちゃんと理解していなかったことでしょう。ゴロフキンは35歳から36歳になっていました。アルバレスはまだ28歳のうえ、1年かけてじっくり体格を作り、パワーにおいてゴロフキンに対抗できるカラダを作っていました。
また、カネロも内心ではゴロフキンのパワーを恐るべきモノと感じていたのでしょう、そこで何より自分もパワーをつけて、絶対に下がらない、むしろ相手をパワーで圧倒することに勝機を見出していたのだと思います。下がるからつけ込まれるし、舐められる。逆にパワーで対抗できれば相手のテクニックを封じることもできる、と考えたのでしょう。

そして実際、再戦においてはカネロは終始正面からゴロフキンからのプレッシャーを受け止め、逆にゴロフキンを慌てさせるほどのパワーでもってプレッシャーをかけ返した。自分がパワーで相手を圧倒できていないことを知ったゴロフキンは焦りと驚きの中で後ろに下がる。もともと常に前傾姿勢で攻め続けるスタイルであったゴロフキンからすると、下がりながら強打を振るうことに慣れておらず、せっかくのテクニックも錆びついてしまう。アルバレスはゴロフキンを超えるパワーを身につけることから始まる、ゴロフキンの良さを封じる最上の戦略を講じたのです。

また、先述したように、やはりゴロフキンは老いていたのだと思います。最近のボクシング業界では、30代のチャンピオンが多く、30-33歳で強さのピークを迎えるボクサーが多いのは確かです。トレーニングの仕方が科学的になって選手生命の長寿化傾向があることや、15ラウンド時代から12ラウンド時代に変わったおかげで(スタミナを維持しなくてはならない)試合時間が短くなったことなどが影響しているでしょう。ボクシングの強さを方程式で表せば、パワー x スピード x スタミナ x テクニック=α となるわけで、単純に若ければ若いほどいい、ということでもなくなったのは確かです。
とはいえ、加齢による衰えが出てくるタイミングは人それぞれ違うし、やはり30代後半になるとパワー、スピード、スタミナについてはやはりピークアウトしてしまうのは容易に想像できます。

もし再戦が今年前半に行われていたとしたら、もしかしたらゴロフキンの勝利という結果もあったかもしれませんし、ゴロフキンが加齢による衰えと、カネロがパワーアップしてくる可能性をちゃんと考慮していたら、それまた違う結果を得られたかもしれませんが、とにかく現実としてはカネロが勝利をあげるという結果になったわけです。

1対1で戦うボクシングのような競技だと、Winer Takes All(勝者が全部とる)と言われるように、勝者と敗者の差がくっきり出ます。ゴロフキンはカネロとの第3戦の実現を狙うかもしれませんが、それが実現しなければ引退せざるを得ないでしょう・・・。
オートバイレースの最高峰MotoGPでは39歳(1979年2月16日生まれ )のバレンティーノ・ロッシはいまだに現役ですが、単純にコースを回る速さそのものではとても最速とはいえず、とっくに引退すべき年齢かもしれません。しかし全員で一斉に走るレースのルール上では速さよりも順位が大事なので、老練な駆け引きでもって(表彰台の真ん中に上がらずとも)ポイントを稼ぐことには成功し続けて、結果としていまだにトップライダーのポジションにいます。
つまり、ゲームのルールによって、選手生命は長くも短くもなるということです。

自分の今のリソースを生かして勝負するやり方を考えていく。それが大事。

さて。ここで本題です。

僕はボクシングは好きですが、仕事としてはデジタルマーケティングに必要なインターネットサービスを開発し、提供するという企業の経営をしています。つまりは原則頭脳労働者です。だからアスリートに比べればそもそも”選手生命”が長いことは重々承知です。

そして、ボクシングと違って、ライバルと直接対決して、勝てないからといって引退しなければならないような世界ではなく、ルール的にはMotoGPのように1対1の勝負ではなくある程度長い期間における優劣を図っていく世界にいます。トップでなくても負けなければいい、という言い方もできます。

まして一般社会、世間的にいえば社長といえば中年、いえむしろ老年に差し掛かった年齢での仕事のように思うのが常識ですから、若い社長を頼りないと感じる層もまだまだ多い。

だから世の経営者たちの多くは、自分の老いをあまり感じないものなのだろうと思ったりします。

しかし、野球のイチローが実質引退状態になっていったり、サッカーのカズが絶対W杯の日本代表に呼ばれるようなことはおきないことや、こうしてゴロフキンが若き挑戦者に敗れるような現実を見ると、自分がピークアウトしているのではないか、という怖れや不安に苛まれます。

自分は頭脳労働者と前述しましたが、頭脳労働だってある種のスポーツなんです。例えば新たな大発見をした数学者の多くは30代までに偉業を達成しています。40歳を過ぎて成果を出した人はかなり稀だそうです。つまり集中力にもスタミナがいるわけで、頭のスタミナだって若い方があるということですね。

経験による老練・熟練したスキルやノウハウで補えるのが経営だ、というのも事実でしょうが、インターネットやAIなどによって足りない経験を補ってしまえば、あとは若さの勝利さと嘯く若者に対して「そうじゃない」と言えるでしょうか?

起業や経営だって、若者のゲームになってきている、と僕は考えます。いや、本当にそうだと思っているんです。僕が投資家で、同じようなビジネスプランを持ってきた若者と老人がいたら、躊躇なく若者に投資します。集中力だけでなく、突き詰めていくありあまる時間を持っているほうが絶対有利ですからね!

とはいえ、もう若くもない自分を諦めている、というわけではないんです。
逆にいうと、そんな傾向、時代背景にどうやって対抗するか、それを考えているんです。ゴロフキンが、カネロに敗れて、時代に合わなくなっていく自分を見つめて何を考えているかはわかりません。復帰を考えても引退を考えても(カネロとの2度における戦いでだいぶ稼げましたしね!)いいと思います。

しかし僕はまだまだ。少し悪口を書いたメイウェザーが、2018年中にフィリピンの英雄ことマニー・パッキャオとの再戦のために現役復帰するというニュースも聞こえてきてますし、勝負の仕方、やり方というのは色々あるのだと思います。

ゴロフキンの敗戦にやや暗鬱とした気分になっているのは事実ですが、僕自身のことで言えば、ますます凛々しく雄々しく戦ってやろう、という闘志を全身にみなぎらせているのです。ただ、言えることは、戦い方を、戦略を変えていく。若さ、パワー、スピードで押し切ってきた過去は忘れて、今の自分の今のリソースを生かして勝負するやり方を考えていく。それが大事なことなんだと考えています。
生物的には老いてきている、少なくとも若くはない。なので、それを補う戦略を持って、まだまだ勝負してやる。そう思っています。

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