日本で開催されている「ラグビーW杯2019日本大会」。世界が驚くほどの活躍を日本代表が見せたおかげで日本中ににわかラグビーファンが増えていますね。ベスト8には勝ち進んだものの、優勝候補の南アフリカに日本チームが力負けして敗退してしまったことで、若干ブームが鎮静化してしまっているような感はありますが苦笑。
今回の日本チームのモットーとなったONE TEAMに見られるように、サッカーやバスケなどの他の団体競技と比べても、ラグビーはチームプレー的なスポーツにみえます。だから多くのサラリーマンのおじさんたちが会社仕事でのチームワークの重要さをやたらとラグビーに例えて説教のネタにしそうです。
でも、ちょっと待って。今回のラグビー日本代表を使って何かを語るにしても、頑張る姿とか仲間を思いやる心意気みたいな、感性的な話はやめてください(そういうの気持ち悪いです)。もっと論理的でテクニカルな要件をちゃんと引き合いに出すようにしましょうよ。

個人の踏ん張りとチームプレーを掛け合わせたオフロードパス

日本チームの躍進を支えた要因はいろいろあると思いますが、その中でもタックルされながらも繋いでいくパス=オフロードパスの見事さ、そしてその結晶とも言える歴史と記憶の双方に残るであろう、3連続オフロードパスからの稲垣啓太選手の素晴らしいトライにその秘密がありそうです。

ラグビーは真横かそれより後ろにしかパスはできません(=前にはパスできない)。ボールを持っている選手はトライを目指して敵陣に走り込みますが、これを妨げるためにディフェンスの選手はタックルをして、ボールを持つ選手を倒しにかかります。

このとき、タックルを受けた選手は倒れながらも味方を探し、その味方選手にパスをします。これがオフロードパスです。
当たり前ですが、タックルを受ける前に味方にボールをパスするほうが正確です。しかし、前述のようにパスは前には出せませんから、少しでも前に進もうと思えば(サッカーは相手ゴールにシュートを叩き込む=得点するゲームであり、バスケットボールもバスケットにボールを押し込んで得点するゲーム、そしてラグビーもトライをして得点するゲームです(注)。つまり、常に敵陣深く、前進することが必要です)、ボールを持ったまま一歩でも前に進むべきです。それをタックルを受ける前にパスすることは、自分自身でボールを前に持っていくというタスクを放棄することに近しいと言えます。
だから、自分が前進できなくなるギリギリまで耐えて、少しでも前にボールを持っていく、そしてついにはタックルを受けて倒されるその瞬間に、ボールをパスして(オフロードパス)味方に勝機をつなぐのです。(もちろん通常のパスよりオフロードパスがエライなんて言ってるわけじゃないですよ?)

(注)ラグビーにはトライ以外にも点をとる方法がいくつかありますが、ここでは触れないことにします。
このページ、めちゃくちゃ参考になります、わかりやすい!

団体競技の素晴らしい連携プレーやお題目に過度に感動して、チームプレーの素晴らしさを説くおじさんたちには、「いいからお前らはもっと勉強しろや」と言い返そう

ラグビーは確かにチームスポーツですが、日本の躍進を支えたオフロードパスの裏側にある心根は、困難を避けて責任を誰かに即パスする安易さを好まず、自ら敵陣に切り込み、一歩でも前に進もうとする、究極の個人技と責任感なのです。つまり、高度で効率的なチームプレーを支えているのは、個々の選手の凄まじい闘志と磨き上げられた個人技の冴え、です。

この点を忘れて、もしくは考えずに単にチームプレーの大切さを説くおじさんたちのいかに多いことか。僕はこの安易な団体競技礼賛の気分が大嫌いです。野球やサッカーに比べると、ラグビーはスーパープレイヤーやファンタジスタが目立ちづらい競技であると思います。でも、だからこそ、そこにみえづらい、磨き抜かれ鍛え抜かれた個人の技と力量に目を向けるべきと僕は思うし、チームプレーを説くあまりに個人としての勉強や訓練を怠るおじさんの知識不足が日本経済の衰退を招いていると感じるのです。

ラグビーに感化されて、チームプレーを若い部下に説教するのはいいですが、その前にお前のそのカビの生えた古臭い知識と錆び付いた技量の衰えをなんとかしろや、と言い返せと僕は言いたい。

ラグビー日本代表を見て感動すべきは、チームプレーの結果ではなく、それを支えている個々の選手の闘志と技量にです。あの素晴らしいオフロードパスからの稲垣選手のトライを支えたのは、一人一人が意地でも前に進んでやる!という闘志を発揮したからであり、そしてその彼らでさえ完敗させられた南アをはじめとする世界のトップチームの凄さを感じるべきです。チームプレーのあり方自体は、日本は世界に通じるものがある、しかし個人技(体力、パワーの差かもですが)においてはまだまだ世界には遅れをとっている。磨くべきは個々のパワーアップであり、その底上げを前提としたチームプレーこそが世界の常識なのです。

タックルを受ける前に安易に誰かにボール(責任)を渡す気楽さを覚えたり、簡単に倒されてしまう弱さに慣れてしまうと、世界との戦いにはとても勝てません。何クソ!倒れてなるか!という闘志を漲らせて、一歩でも先に前進する気迫とパワー。それこそが僕たちに必要なものです。そのうえで、倒されても敵にボールを奪われまいとする、ギリギリまで頑張って初めて味方にボール(責任)をパスする、そんな闘志を身につけましょう。
その闘志も持たずにパス練習ばかり強いるような上司には冷たい笑顔で応えてあげましょう、個人技を練習せずにチームプレーを説く上司にろくな奴はいません。

馴れ合いを捨てて、孤高の人生をえらびましょう。その先にはきっといい出会いがあります。自分の力で少しでも仕事を前に進めようと頑張る同僚や部下、上司にきっと出会えます。その彼または彼女がボール(責任)をパスしようと必死に周囲を見渡すその瞬間に、あなたの「任せろ!」という頼もしい目を彼または彼女に見せることが、あなたの仕事人生の最骨頂なのです。

あなた自身がトライできるか、それともそのパスをつないでさらにオフロードパスをするかは関係ない。その強い意志をつなぐか、結実させるかは関係なく、そんなプレーの中にいることができれば、仕事人としてはしてやったり、なのですよ。

画像: 仕事をラグビーに例えるにわかファンよ、ならば”オフロードパス”をもっと練習せよ

小川浩 |hiro ogawa
ファウンダー兼CEO

東南アジアで商社マンとして活躍したのち、マレーシアのクアラルンプールでネットベンチャーを起業。マレーシア、香港、シンガポールに拠点を広げる。2000年に日本帰国したのちは日立製作所、サイボウズで先進的なネットサービスの開発に従事。2006年にサイボウズ子会社のフィードパスを立ち上げたのち、2007年に株式会社サンブリッジのEIR制度で再び起業家として活動開始。2012年7月にソーシャルネットワーク企業 株式会社リボルバーを創業、現在に至る。

著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレスジャパン)、『仕事で使える!Twitter超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ)などがある。

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