世間ではCOVID-19騒動(え?なんのことだかわからない?・・・わかりました、新型コロナウィルス感染症に関わる騒ぎ、と書きますよ)で、エンターテインメント系のサービスは供給側も消費側も自粛必須になっていて、あまり明るい話題がない状態ですね。
社員の在宅勤務で対応できる業態の企業はいいですが、場所に縛られるフォーマットでしか仕事ができないタイプの業態(例えば飲食店もそうですしホテルなどの装置産業もそうです)は死活問題になっているでしょうね。
積極的に営業に関わるコンテンツを発信するのも正直はばかられるようなムードを感じるので、当ブログでも、ちょっと趣向を変えて、どんなご時世になっても変わらない、社会人もしくは経済人として学ばねばならないスキルについて、語っておくことにします。
そんなわけで、【商売人のトリセツ】と銘打った第1回は、与信稟議についてです。

商売をするなら何よりも最初に考えるべきこと・・与信=CREDIT

与信、という言葉をご存じでしょうか。(社会人なら 知らない、とは言わせません。言ったら目を突きますよ)
与信とは、信用を与える、という意味です。具体的には、商売をしてもいいかどうかの見極め、もしくは、どの程度(いくらくらいまで)なら万一取りっぱぐれることになっても諦められるか、という限度を意味します。
例えば、コンビニに行ったとして、お客であるあなたは商品を持ってレジに行きますね。そしてその商品をレジの店員さんに渡すと、店員さんはその商品をPOSでいくらの商品なのかを確認してくれたうえで、その金額をあなたに請求してきます。そしてあなたが(現金でもQRコード払いででも)代金を支払うと、その商品を受け取ることができます。
その場合、商品とその対価の交換は、ほぼ同時、厳密には先払いになっています。つまり、コンビニにおいては、客であるあなたに対しては一切のリスクをとらず、金をもらってから商品を渡す、というスキームになっているのです。ということは、コンビニはどんな客に対してもリスクをとらない、つまり与信を与えていない、ということになります。(棚から商品をとってレジを通さずあなたが脱兎のごとく持ち逃げする≒万引きするというリスクは、とりあえずここでは考えないことにします)

同じように、あなたが電車に乗る時も、料金を先払いするので、あなたがキセルをしない限りは鉄道会社は前金で代金回収していますから、やはりあなたに対する与信はありません。

逆に、あなたがタクシーに乗ったとしたら、あなたは目的地についてからお金を払うので=後払いなので、その料金分、タクシー会社もしくは運転手さんはお客さまであるあなたに対してリスクを負っていることになります。つまりその料金をあなたが支払うであろうと予め信用したうえで(信用を与えてくれたうえで)サービスを提供してくれていることになります。
言い換えれば、相手をどのくらい信用するか、ということを金額ベースで顕すことを、与信行為と呼ぶ、ということになります。

商品やサービスを先に提供して代金を後からもらう、という後払いの行為は、すべて与信が必要です。万一そのお客さまから代金を回収できないかもしれないと考えることがリスクを考えるということであり、そのリスクを負ってまでそのお客さまと商売するかどうかを判断することが、与信の枠を設定する、限度額を決めるということ(=いくらまでなら、万一取りっぱぐれてもそのお客さまと商売するかを決めること)になるのです。

与信枠の承認を得る≒稟議を行うこと(決裁責任者から承認をとること)は、社員自身を守ること

会社が自社のサービスや商品をお客様に売るときには、見積書というものが必要になります。見積書を出して、金額を含め、支払い方法や商品を受け渡す方法や時期などのさまざまな条件を確認してもらわねばなりません。そのうえで合意した内容を契約書(発注書または注文書と呼んでもいいです。とにかく売買が成立したことを証明する書類)にまとめて、売主と買主がサインもしくは記名捺印をして正式に商売を行います。

見積書には大別して、だいたいの金額や納期などを伝える概算見積 と、全ての条件に合意されたならば、自動的に契約が成立することを拒否できない(買い手が買う!と言っているなら売り手は絶対に売らなければならない)正式見積 の二つがあります。
正式見積、もしくはその内容を記した正式見積書は、通常、いつまでその内容が有効なのかを示す有効期限が記されています。それがないと、在庫が無くなったり値上げをしたにもかかわらず、その正式見積書を持っている者が後から「買いたい!」という意思表示をした場合 売り手は古い条件で商品を提供する義務を負います。その場合、売り手は大損をする恐れだってあります。だから、正式見積書を発行する場合は、その有効期限を定める必要があるのです。

見積書というものを軽く考えるビジネスパーソンがたまにいますが、上記のようなリスクを全く考えていないとすれば、重大な損失を会社に与える恐れを孕んでいることになります。(同時に、その損失を自分が弁償しなければならないかもしれないことを理解しておくべきです)

正式見積書を発行するためには、買い手となる者(個人にせよ法人にせよ)にどれだけの与信があるか、そしてその与信の枠内に収まる内容かどうかを念入りに検討する必要があるのですが、そのことを考えない人はビジネスに携わる資格ゼロ、ということが言えます。そして、この検討作業のフローのことを、稟議、と呼ぶのです。(言わずがなものですが、稟議は正式見積書発行や与信設定のためだけにあるわけではなく、すべての承認事項に関わるものです)

当社(リボルバー)では、お客さまごとに与信枠(いくらまで商売をしてよいかの金額での限度額)を設定するようにしていますが、この決定は代表者(≒社長)決裁になっています。
また、正式見積書の発行をするためには社判の押印が必要ですが、これも代表者(≒社長)決裁です。
もちろんワークフロー上、担当者からその上長または所属部門の最高責任者の承認を経た上で、最終決裁となるわけで、一旦上司に判断を投げたからといって、直接の担当者に一切の責任がなくなるというわけではないですが、それでも稟議を回し、承認を求めた上で決裁を得たならば、当該稟議事項が持つリスクのほとんどは決裁者に分担してもらうことになります。
その意味で、与信を申請するのは担当者の責任ですが、その限度額が認められたならば、その与信範囲で行われる仕事が持つリスクは会社全体で負担するものとなり、万一その仕事で回収不能などの事故が起きたとしても、本来担当者はその責を逃れられることになるのです。
稟議書を回すということは、該当する仕事を推進するGOサインを出すことを許された=権限を与えられた人の承認を得る=決裁をしてもらう、ということです。当社(リボルバー)では与信設定も正式見積書発行も代表者(≒社長)決裁ですが、稟議される対象によっては(例えば休暇申請)決裁を必要としないことがあったり、所属本部長決裁になったりします。会社の組織、ヒエラルキーというものは、そうした権限の大きさや範囲によって肩書きが決まる世界でもあります。
逆に言えば、そうした権限を与えられているということは、権利とともに義務というか、責任を取らされる範囲が広くなっている、ということです。フラットな組織が良い!と無邪気に考えるのはいいですが、稟議のフローが決まっていない、ということは、すべてのミスの責任を自分で負わねばならない、ということですから、よくよく注意しておかねばならないでしょう。

個人事業ならば、すべての責任は自分で負う他ありませんが、会社組織に所属しているのであれば、そんなリスクを背負い込む必要はありません。積極的に上司に相談して、稟議を回して、責任をシェアしてもらうべきです。
正しく報告をして、正しく稟議を回して、正しく与信を設定して、正しく与信枠の範囲を守って仕事をしましょう。それは会社のルールを守ることであり、同時に会社のルールによって設定されたリスク分散の恩恵に預かることであるのです。それはすなわち、自分自身を守ることを意味するのです。

画像: 【商売人のトリセツ】与信とはなにか。稟議とはなにか。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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