成功の証=ボルサリーノ を手に入れたいと願う若者の野心
映画『ボルサリーノ』。最近ではフランス映画を好む人はだいぶ少ないと思いますが、裏社会の頂点を極めようとする若者たちの無謀な挑戦を描いた傑作ギャング映画です。
フランスの名優ジャン=ポール・ベルモンド(寺沢武一先生の『コブラ』の主人公の顔は彼がモデルと言われていますね)と、これまた“美男子”の代名詞であったアラン・ドロンの2人の若者が、チンピラ暮らしを良しとせず、暴力でのし上がっていこうとするチャレンジを描いた作品です。
タイトルのボルサリーノ は、当時の暗黒街の大物たちが愛用していた中折れ帽のメーカーであり、今に続く高級帽子ブランドです。
成功者の証として、いつかボルサリーノ を被って粋がってやるという、若者らしい無邪気な憧れをタイトルにしたものですね。
僕自身、新卒で入社した商社で、海外駐在を経験した先輩社員らがこぞってクロスの金張りのボールペンを使い、左手首にロレックス のデイトジャスト をはめているのをみて(僕は右手首にはめますが)、一刻も早く真似したいと思っていたものです。だからこのタイトルの意味はよくわかるし、主人公たちの気分もよく理解できるのです。
新型コロナウイルスが怖い?なめてんじゃねえ、こちとら命はってんだ、と言っておきましょう。
(憧れや野心には、具体的な対象があったほうが、挑戦しやすいのです。ボクシングのチャンピオンベルトもそうだし、いい車に乗りたいとか、あんな美女と付き合いたいとか、あの店のあの酒を飲むんだ=昔で言えばドンペリとかね、という具体的な象徴は案外大事です)
野心家たちの宴に参加しよう
当社(株式会社リボルバー )は2012年創業のベンチャー企業です。『ボルサリーノ』で2人の若者が選んだ世界は金と暴力がモノを言う、法の外の論理に支配された暗黒街ですが、僕らがいる世界は 法の下に整備された論理に基づく日の当たる世界です。金がモノを言うのは変わりませんが、暴力は厳禁、代わりにビジネスモデルで勝負です。ただ、既製のルールに必ずしも従う必要がないという点では同じと言えます。(法の網を破らないことは当然として、既存ルールの矛盾を正すために横穴を開けていくのがベンチャーです)
ジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロンの2人は、暗黒街のボスたちが決めた掟というかルールに従わず、才覚と暴力でもってどんどん縄張りを広げていきます。
同じように、ベンチャー企業を立ち上げる起業家は、才覚とビジネスモデルでシェアをどんどん拡大していかねばなりません。
ギャングならば、自分たちが弱腰だとみられたら、つまり やられてもやり返さない奴らだとなめられたら、周囲からターゲットにされてしまいます。なめたらあかん、なめたらぶっ殺す!(暴力的な言葉を使ってすみません)というハッタリや気負いが絶対に必要なんです。特にこの『ボルサリーノ』の2人のように駆け出しの新興ギャングに 揉め事を起こしていくことはあっても、“まぁまぁ”と穏やかに収めようと大人の対応をすることはあり得ない。半沢○樹じゃないですけど、やられたらやり返す、という姿勢じゃないと、よってたかってやられっぱなしになるんです。
同じように、ベンチャー企業とは、なんとなく落ち着きつくある市場に風穴を開け、割り込んでいく試みですから、(法律を明らかに犯すような悪さをしない限り)多少の無茶や無鉄砲はなければならない、不可欠な属性だと思います。言われるままに唯々諾々と従うような従順さは、ベンチャー企業にはあってはならない“悪徳”なのです。
『ボルサリーノ』の主人公たちは、ヤンチャのかぎりを尽くして、縄張りを広げた挙句に、厳しいしっぺ返しを喰らうのですが、仮にその結末を予め知っていたとしても、やはり2人は既存勢力への挑戦を諦めたりはしなかったでしょう。次はうまくやる、そう誓ったはずです。
ベンチャーもまた、たいていは失敗します。それでも挑戦をやめない。勝つまで戦う。そんな気合と気概を持つ者だけが参加できるゲームであり、気合と危害を持ち続けた者しか勝利を得ることができない厳しい世界なのです。
あいにく、アラン・ドロンの闇の美貌も、ジャン=ポール・ベルモンドの陽気なしたたかさも持ち合わせていないのですが、彼らが放った閃光のような青春の煌めきに、強く憧れる気分は、十代の頃から全く変わっていない。
やられたらやり返しますので、手を出さないでくださいね。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。