今回のテーマは、Web2.0以降、急速に変化してきたメディアをどう捉えるか、です。
※ 2017年6月から毎月第3木曜日開催
Web2.0以降の情報量の大膨張と、コミュニケーションの変化
林さん曰く。
テレビや雑誌など、パッケージされてまとめられたもの(メディア)を介して情報を取得する時代から、やがて世界はインターネットもしくはWWW(World Wide Web= ウェブ)を媒体として情報を取得し、同時に発信する時代となりました。
Web2.0時代(2004-6年頃)には、ブログなどを利用して誰もが情報を発信することができるようになり、消費者が受け取る情報の量は、爆発的に増えていくことになります。さらにTwitterやFacebookに代表されるソーシャルメディアの普及と、iPhoneまたはAndroid搭載のスマートフォンやタブレット(スマートデバイスと総称)の普及によって、その傾向はさらに加速し、我々は消化しきれない量の情報に晒されるようになります。
スマートデバイスとソーシャルメディアの普及で、従来型メディアの価値が低下
さらに林さんが指摘するのは、わずか140文字のテキストをシェアするためのサービスであったTwitterが、リンク(URL)をシェアする機能をサポートしたことがさらなる変化を及ぼしたことです。
スマートデバイス上で多くのネットユーザーが、気になるブログの記事やニュースコンテンツなどのリンクをTwitter上でシェアすることで、我々は一層多くの情報に触れるようになりました。Twitterの成功をみたFacebookや、後続のソーシャルメディアも同じようにテキストや写真だけでなくリンクをシェアする機能をサポートし始めます。やがて我々は、コンテンツをソーシャルメディア上で発見し、閲覧するという受動的な消費行動に慣れてしまうのです。
その結果、さまざまなメディアのトップページ(ホームページ)は相対的に価値を失っていきます。消費者が、直接必要なコンテンツに接触するようになったため、情報のインデックスあるいはフィルターとして機能していたはずのトップページの存在価値が低下してしまったのです。
同時に、消費者は、さまざまなソーシャルメディアのタイムラインに流れてくるコンテンツが、一体どのメディアから発信されたものか判別ができなくなり、それらのコンテンツが持つ情報の真贋を図ることも難しくなっていきます。そのことが、メディアの価値を相対的に低下させるきっかけになったと林さんは指摘するのです。
フェイクニュースとWelq問題が明らかにしたソーシャルメディアと検索への過度な依存の危険性
こうした問題は、やがて溢れかえる「フェイクニュース」(虚偽の情報でつくられたニュース≒デマ、プロパガンダ、ディスインフォーメーション)によってFacebookやTwitterなどのソーシャルメディア上のコンテンツへの信頼性の喪失を生みました。同時に日本においては、DeNAの『WELQ問題』に見られるように、Googleに代表される検索エンジンの検索結果もまた虚偽の情報やでまかせに”汚染”されてしまうという事件が起き、ソーシャルメディアのみならず検索から得た情報でさえも信頼できない?という不信感を消費者に与えることになりました。
ソーシャルメディア上のコンテンツは、自分の友達から伝えられる情報だけに、無条件に信頼できると思っていた我々でしたが、ソーシャルメディアは思った以上にフェイクニュースに弱く、正しい情報を選別してくれるフィルターとならないことが誰の目にも明らかになりました。また絶対的な信頼を寄せていたはずのGoogleのアルゴリズムでさえも、Googleを欺き意図的にデマを撒き散らそうとすれば、それを排除しきれない脆弱さを持っていることが判明してしまったのです・・・。
量や速度(ブレイキングニュース)から、質や文脈(スローニュース)への原点回帰
林さんは、こんな時代だからこそ、正しいメディア運営者による「信頼できる情報」の配信が重要と指摘します。そのために、再度インターネットのメディアのトップページを見直そうとする動きがでてきていることを、林さんはその一つの動きであるというのです。
その事例として、林さんはデジタルメディア DIGIDAYが取り上げたあるニュースを紹介します。
この記事によれば、ブルームバーグは「各記事を下へスクロールしていくと、トップページが現れる仕様」を採用し、トラフィック向上に成功したと言います。トップページの重要性を再評価し、信頼されるメディアとしてのブランド力を指し示し、良いコンテンツを消費者に紹介するフィルターとしての価値を、再びトップページに与えるべきだと林さんは主張します。
そのとき、Workshopのホスト役である当社の小川浩が、現在当社が開発中のdinoベースのメディアの新UI「Spiral」は、ブルームバーグの試みと同じように、各記事をスクロールすると、その記事に近いコンテンツをまとめたインデックスを表示すると答え、実際にそのデモを見せました。
林さんも小川のデモに反応し「メディア自体が、コンテンツとトップページをもっと丁寧に作り込むことで、読者との間でよりステキなコミュニケーションが取れるのではないか。今こそこれまで以上の丁寧さ、じっくりさへの原点回帰が必要になっている」と語りました。
この動きは世界的にも進み始めており、フェイクニュースを生みやすい、ブレイキングニュース(=速報)に偏りやすいメディアが、あえて分析と解説に時間をかけて伝えるべき文脈、受け取るべき価値を丁寧に作り、伝える、いわゆる”スローニュース” を重要視するようになっていることからも、林さんの指摘が全世界のメディアにとっても共通認識になりつつあることがわかります。
ライトニングセッション
後半は参加いただいた全員による、フリートークセッションを行いました。話題は前半のスマートデバイスの他に、最新技術の動向についても話が弾みました。
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デジタルデバイドの定義が変わる?
デジタルデバイドという言葉があります。これまでは、主に世代間や業界ごとによってコンピューターを使いこなせるかどうかが決まってしまい、その格差を問題視するための言葉でしたが、スマートデバイスの普及によって、最近では全くITに疎いと思われがちの年代や業界に属する人のほうがむしろITを使いこなしている、という林さんの指摘がありました。
例えば、漁業を営む方々がiPad とそこにインストールされたアプリケーションを利用して、収穫量のコントロールをしている様の動画が紹介されたのですが、アプリをソナー(魚群探知機)として使うというよりも、むしろ採りすぎて環境を壊さないような配慮をするためにアプリを使っていることに、一同は驚愕させられました。
これまでITとはコンピューターを使いこなすことに習熟することだと思われがちでしたが、スマートデバイスの登場で、何を使うかではなく、どう使うかが重要であり、むしろこれまでITに疎いと思われていた層のほうが、積極的に自分たちの作業をデジタルへと置き換えて、自由に使いこなしている。いまやデジタルデバイドは、PC世代とモバイル世代の格差、とさえいえるのかもしれません。
人類が発明したほとんどの家電の機能が集約されつつあるスマートデバイス
IoT(Internet of things=すべてのモノがインターネットに接続され管理されていくこと)は、スマートデバイスを軸に進んでいます。
そもそもスマートデバイスのすごいところは、アプリを入れ替えさえすれば、それは電話にも翻訳機にもカメラにもなる、ありとあらゆるデバイスに早変わりするということでしょう。会場であるTHE FACTORYのドアロックも、スマートフォンにインストールしたスマートキーで開閉されていますが、これもスマートデバイスが家やオフィスの鍵を代替するという一つの例です。
また、会場ではリコーの360度カメラ THETAで撮影されていましたが、参加者の中からは、最近では地方のカーディーラーでも車内を360度撮影したVR写真を使ったヴァーチャル試乗会が開催されている、という報告や、TwitterやFacebookのライブ動画配信機能の使い道のアイデアなど、各自 スマートデバイスを中心とした新しいインターネット体験に対する興味は尽きない様子でした。
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今回のWorkshop@THE FACTORY Vol.01で最も重要なポイントは、「情報の信頼性の判別が困難となった現在では、メディア運営者はかつての雑誌などのように、信頼性を担保したコンテンツを丁寧に作りこみ、そして読者に正しく届けるための戦略を考えるべき」ということだと思います。
登壇いただきました林さん、お忙しいなか参加いただきました皆様、誠にありがとうございました。
次回のワークショップのゲストはITコンサルタントの藤元健太郎氏
次回のゲスト講師:藤元健太郎氏。
テーマは「これからのオウンドメディア,キュレーションメディアのサービスモデルはどうあるべきか?」です。
ご興味のある方は下記ページをご確認のうえ、ご連絡くださいませ。
定員10名となっておりますので、原則として先着順です。ご興味ある場合は、お早めに申し込みください。