戸谷 忠史
富士山マガジンサービスにて、事業開発グループ メディアプロデュース・ディビジョン シニアマネージャーを務める(2021年1月現在)。印刷会社、電子書籍書店を経て2004年より富士山マガジンサービスにてデジタル雑誌サービスの立ち上げに携わり、現在は雑誌ブランドを活用したさまざまなサービス構築の支援を行なっている。
株式会社富士山マガジンサービス(以下、富士山マガジン)は、雑誌の定期購読に特化したオンライン書店『Fujisan.co.jp』を運営する企業です。取引出版社数は1,500社以上、取扱雑誌数は国内外合わせて10,000誌以上と膨大で、同サイトにはあらゆるジャンルの雑誌が集結しています。
今回講師としてお越しいただいたのは、同社事業開発グループにて、定期購読を活用した雑誌ブランドのサービス構築支援や運営サポートを行う戸谷忠史さん。『雑誌メディアの取り組み事例と今後の動向 ~情報コンテンツからファンサービスへ~』と題し、今後の雑誌メディアのあり方をお話しいただきました。
Webでの英語学習サービスで人気『The Japan Times Alpha』
『The Japan Times Alpha』は、1951年に『Student Times』として創刊して以来、70年もの間英語学習者に親しまれてきた週刊の英字新聞です。※2018年に『The Japan Times Alpha』に改称
新聞ということもあって定期購読者は非常に多く、学習意欲の高い読者が集まっているそうです。しかし、そうした読者に対して、英語学習を飽きさせない工夫がもっとできるのではないかと考えた出版社は、Webを使ったサービスを考案。富士山マガジンのサポートもあって、「学習意欲」を満足させるためのファンサービスをスタートさせました。
それが、記事のリスニングや単語の解説、英語表現が学べるクイズや課題の投稿、オンラインセミナーの視聴といった定期購読者限定のサービスです。
Fujisan IDとの連携でサービス展開が容易に
会員限定のサービスを新たに展開するためには、これまで募ってきたメルマガ会員などの会員情報を整理する必要があります。
そこでWebサービスの開始と共に、メルマガ会員の情報をすべて富士山マガジンに移管。Fujisan.co.jpにて取得している定期購読者用のFujisan IDと紐づけることで、各サービスの利用時にユーザーが定期購読者かメルマガ会員かどうかを判別できるようにしました。
また無料のメルマガ会員には積極的にWebサービスの開始をアピール。すべてのサービスが受けられる定期購読会員への移行を促しました。
増え続ける定期購読者数
「読む」だけだった新聞が、定期購読をするだけで「読む」「聞く」「書く」といった、より深い勉強ツールになる。このサービスを展開しはじめてから、メルマガ会員のみだった人、都度購入をしていた人の多くが定期購読を契約。なんとその数は、Webサービス開始前と比べて23%も向上したそうです。
さらに注目したいのは定期購読の継続率です。これまでの定期購読継続率(初回)は46.1%でしたが、これが48.1%に。2期目以降の定期購読継続率は71.9%から74.8%に改善しています。継続率の向上は2〜3%と少なく見えるかもしれませんが、これが何期も続くことでベースとなる超ファン数は拡大します。
読者の求めるサービスを提供して対価を得る。まさにファンサービス成功の好例でしょう。
物販を軸にサービス展開する『子供の科学』
富士山マガジンは、定期購読者の管理に加え、ECプラットフォームの提供、商品販売のサポートや商品に付随する動画作成、さらにはリアルイベントの開催など、出版社に対してさまざまな支援を行っています。その事例として戸谷さんが挙げたのが、小学校高学年向けの科学雑誌『子供の科学』です。
定期購読者は商品・イベント参加がすべて割引価格に
『子供の科学』は記事を展開するだけでなく、そこで学んだことを子供たちに実践してもらい、より理解を深めていけるような取り組みを行っています。
それが誌面企画と連動した実験グッズの販売です。定期購読者であれば、そのすべてが割引価格で購入できるうえ、本誌がその教科書となるため、商品購入と同時に定期購読を申し込む方が非常に多いといいます。
販売している商品は「モノ」だけではありません。人気講師を招いたワークショップや、オンライン教室の参加権なども割引価格で販売しています。こうしたイベントは会場の手配がネックになりがちですが、富士山マガジンでは会場の手配までサポートしてくれるため安心です。
Fujisan ID + メディア専用機能
『子供の科学』の定期購読や商品購入は主に親である大人が決済するため、実際の読者である子供の動向を分析しづらいという問題がありました。この問題を解決するため、富士山マガジンでは定期購読用のFujisan IDに、同メディア専用の情報登録機能(コカネット会員)を追加。これは決済者である大人が、自分のアカウントに子供の情報を登録できる機能です。
これにより媒体側は親御さんを通して子供の情報を分析できるように。読者側としては親子参加のイベントなどで子供の情報を入力する手間がはぶけるようになりました。
現在はコロナ禍で直接会って話をするイベントは行えませんが、富士山マガジンでは動画配信や動画製作のサポートも実施。各イベントをオンライン開催に切り替えることで、現在も順調に定期購読者を伸ばしているといいます。
ファン心理をサービスに反映した『GT-R Magazine』
戸谷さんが最後に例示してくれたのは、日産自動車が誇る大人気スポーツカー「GT-R」を題材にした隔月誌『GT-R Magazine』です。富士山マガジンでは、同媒体用に定期購読者かどうか判別のできるECプラットフォームを提供。その運営も富士山マガジンが行っています。
GT-Rファン垂涎の定期購読者限定イベント
このECサイト「R's Selection」では、定期購読者への割引サービスや、年間の購入金額に応じたプレゼントのほかに、定期購読者だけが申し込める「R's Connection」という会員サービスも展開しています。会員になると、限定商品の購入や会員限定イベントへの参加申し込みが可能になります。
この会員限定イベントは、R32型スカイラインGT-Rや、R33、R34といった名車の開発者たちを特別ゲストに招くというスペシャルなもので、まさにファン垂涎のイベントです。元々クルマという趣味性の強い題材なだけあって、イベントに参加したいから定期購読をするという人も非常に多いといいます。
ファン心理をついた新たなマネタイズ施策も
同媒体では一般参加可能なイベントも実施していますが、そうしたイベントでも会員限定の特別サービスを展開しています。その一つが、定期購読者のみが購入できる優先パーキング券です。
このパーキング券は、イベント会場の入り口に近い駐車スペースを確保するというもの。これまでは競争率の高さから深夜出発でオープンを待つという方もいましたが、このパーキング券を購入すれば、駐車場所が事前に確約されます。さらに自慢の愛車を目立つ場所に停められるということから、30%を超える会員が利用したそうです。
まさにファン心理とマネタイズを上手く融合した例といえます。
出版不況でもできることはある!
ご紹介いただいた雑誌メディアの定期購読者数は順調に伸びており、業績も好調だといいます。
戸谷さんは最後にこう結びました。
「雑誌の売上不振、出版業界の低迷などが叫ばれる昨今ですが、媒体が持つコンテンツの魅力や、そこに対する読者の興味関心が薄れているわけではありません。読者側のメリットをしっかりと考えて多角的にサービスを展開していけば、ファンはしっかりとついてきてくれます」
富士山マガジンへのサービス構築依頼や運営支援の相談は増加の一途をたどっており、戸谷さんの所属する事業開発グループも2021年2月には「出版コンサルティンググループ」に名称変更。これまで以上に、定期購読を活用した雑誌ブランドの発展に力を入れていくそうです。
Fujisan IDとdinoサブスク機能の連携で広がるメディア運営
リボルバーが開発・提供するパブリッシングプラットフォーム「dino」には、Webメディア上で会員限定コンテンツを提供できるオプション機能「Subscribe with dino」があります。
この会員機能とFujisan IDを連携することで、雑誌本誌の定期購読者に対してWeb上でも限定コンテンツを提供できるようになります。dinoで運営されているメディアなら、戸谷さんにご紹介いただいたような各種ファンサービスが容易に展開できるというわけです。
いままさに新たなサービスを思案しているメディア様はもちろん、ファンサービスを見越した新規メディアの立ち上げをお考えの出版社様に関しては、スピーディー且つ低コストでメディア運営のできる「dino」は最適です。
ご興味のある方は、ぜひ当社までお問い合わせください。