PDCAに代わる?ビジネス戦略理論として脚光を浴びている、OODAループをご存じでしょうか。
Observe(観察し)、Orient(方向を決め)、Decide(決断し)、Act(行動する)の頭文字をとってOODA。このOODAを問題解決するまで何度でも繰り返し行うからOODAループと呼ばれます。
元々は空軍パイロットだったジョン・ボイド大佐が提唱した(彼自身がウーダループと発音した)理論で、いまや多くの企業のビジネスモデルに応用されているそうです。

ピレネー?アルプス?遭難したチームを救った地図の話とは【センスメイキング】

ここでちょっと別の話をします。

あるとき、ピレネー山脈を登山中に雪崩に遭遇した登山隊が、ほぼ全ての装備を失って立ち往生してしまったそうです。もはやこれまで、と全員が死を覚悟したとき、一人の隊員がポケットに一枚の地図があることを発見して隊長に報告しました。

この尾根の所在と太陽の位置からして、下山するにはあっちの方向を進めばいいのではないか?

その地図を見た隊長は、とっさに判断し、その地図を頼りに下山を試みることを提案。隊員たちも隊長に同意し、最後の力を振り絞って歩き出しました。そして、彼ら登山隊はなんと奇跡的にも無事に下山することができたのです。

自力で下山してきた登山隊を驚きと安堵の思いで迎えた救助隊たちは、困難を克服して奇跡の生還を成し遂げた彼らの勇気を讃えつつも、どうやって下山できたのかを問いました。

「この地図のおかげです」登山隊の隊長は自分たちが命を預けた一枚の地図を差し出しました。

すると救助隊のメンバーは思わず唸りながら言いました。「これ、ピレネーの地図じゃないですよ、アルプスの地図ですよ」

つまり、遭難した登山隊たちがひたすら信じて命を託したのは、間違った地図だったというわけです。

この話、元ネタは実話らしいのですが、場所を入れ替えた全く同じような話(アルプスで遭難したハンガリー軍の偵察隊が、ピレネー山脈の地図を使って生還した、という)も存在します。どちらが本当だとしても、伝えたいメッセージは同じです。

ここでよく言われるのが、センスメイキング(Sensemaking) という力の話です。

登山隊は、確かに間違った情報を元に行動して、結果的には助かったけれど、最悪な事態になり得たかもしれない。しかし、あのまま立ち往生していれば、待っていたのは間違いなく数時間後の凍死でした。彼らを救ったのは地図があった、という事実ではありますが、本当は隊長の決断にあった。

(情報としては間違っていたけれど)地図があった、という事実から、それを元に帰路を推測し、時に状況に応じて進路や行軍速度を修正しつつ、目的地にたどり着かせたのは、隊長の決断とその説明です。
隊長は決死の状況で行動目標を定め、その方法と意義を隊員たちに説明して全員を納得させました。あやふやな情報を元に状況を推測し、見当をつけて、やるべきことを決める。そして、自分はもちろんのこと、行動を共にするメンバーたちを納得させるトーク。これが大事です。
センスメイキングは、リーダーに不可欠な資質であり、自分が置かれた複雑な状況から為すべきことを考え出し、それを周囲が納得できるストーリーとして説明できる能力のことです。

登山隊の隊長にこのセンスメイキングの能力があったからこそ、登山隊は助かった。
地図そのものは間違っていたけれど、我々が常に正確な情報を得られるとは限らないわけで、そのとき手に入れられる情報や材料を頼りに仮説を作り、その仮説が成功につながる可能性があることを周囲に対して納得してもらえるプレゼン。そして動きながら、間違いを修正しながら正答にたどり着く行動力。
これらは起業家や経営者など、不確実性の高い世界に生きるリーダーたちにも必要とされるスキルであることはいうまでもありません。

正確性より速度が重要。しかし同時に正確性も磨き上げる努力をせよ

ここでOODAループの話に戻ります。

ピレネーで遭難した登山隊は、方角もわからない厳寒の雪山で得た一枚の地図というヒントを使って冷静にObserve(現状分析)して、Orient(自分たちがいる場所と生還するための方向づけ)して、Decide(下山を目指す決断)をして、Act(行軍開始)しました。

前項で書いたように、もし彼らが地図を冷静に検証し続けていたら、その地図がピレネー山脈のものではなくアルプスのものであることを発見して意気消沈していたかもしれません(そのまま地図を捨てていたかも)。
また、地図をどう思ったかは別に、待機して猛威を振るう吹雪をやり過ごすことを選んだかもしれません。とっさに下山を目指すべき、と判断して行動に移したからこそ、彼らは助かった。

つまり、OODAループに基づく思考方法や行動方式を得たからといっても、いち早く決断して行動に移すことができなければ意味がない。

孫子は「兵は拙速を聞く。未だ功みの久しきを賭ず」(やり方はまずくとも速いほうが、やり方はうまくても遅い、よりもはるかに良い)と言いましたが、まさにそれです。

Observeして得た情報をOrient(分析して方向を定める)する際に時間をかけすぎてはダメ、ということです。正確さとスピードをトレードオフするなら、常にスピード重視。時間こそが最も貴重であり、限られた時間だからこそ浪費せず、早く結論を出して行動に移すことが重要なのです。

もちろん、常に拙速であれ、といっているわけではありません。訓練によって、短い時間に最適な判断をして決断を下せるようになることが大事です。

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