僕は企業経営者にとってもっとも大事なことは、ブランドを作り、育て、守ることだと思っているのですが、ちょっと僕の一家言を聞いて(読んで)ください。
【ブランドの語源・由来】 ブランドは、英語「brand」からの外来語。 「brand(ブランド)」の語源は、焼印を押す意味の「Burned」で、自分の家畜と他人の家畜を間違えないよう、焼き印を押して区別していたことから、「銘柄」「商標」を「brand(ブランド)」と言うようになった。
ブランドの強さを知る簡単な方法
マーケティングとブランディングは表裏一体のアクティビティだと僕は思っています。
まずブランド価値を図るもっとも簡単な方法は、「商品名=商品セグメント」「商品セグメント=商品名」 の二つの質問をしてみることです。◎◎といえば?という質問に対して人々が口にする回答こそがブランドです。
メルセデスといえば?と聞けば、大抵の人は「高級車」とか「ドイツの高級車」というように答えると思います。この場合、メルセデスというブランドがどういうカテゴリー、セグメントにあるブランドか、ということがすぐにわかります。これがポジショニングです。
だから自社のサービスや商品のポジショニングを知りたければ、なるべく多くの人に自社ブランドの名前を聞いて何を思い浮かべるかを聞けばいいのです。もし、なんの答えもない=あなたのブランド名を知らない、ということになれば、それはあなたのブランドがさほどパワフルではない、という結果ということですね笑。
次に、同一のセグメントの中でのブランドの強さを図るには、さっきの質問の逆を訊いてみることです。つまり、「商品セグメント=商品名」の質問です。
高級車といえば?の答えは、人によって異なるでしょうが、多分メルセデスとかロールスロイス、ベントレーなどのような高級セダンメーカーや、ポルシェやフェラーリ、マクラーレンといったラグジュアリースーパーカーメーカーの名前が上がるかもしれません。ここでセグメントをさらに絞り込んで、ドイツの高級セダンといえば?と聞けば、メルセデス、BMW、アウディなどのような回答になるでしょう。セグメントを細分化すればするほど、ブランドの印象は強くなります。ただしあまり細分化しすぎると、今度はそのセグメントが市場として小さくなりすぎて、ブランドが存在する価値がなくなります。
海の王者もいいし、湖の王者もいいですが、水たまりの王者であることになんの意味もないことと同じです。このセグメントの切り分け方はポジショニングを決める大事なステップですので、マーケターやブランディング担当者としては真に腕の見せ所、ということができると思います。
A=B、B=Aを同時に成立させるブランドは最強です。高性能スマホといえば?という質問をすれば、結構な数の人がiPhoneと答えるでしょう。逆にiPhoneといえば?と聞けば高性能スマホに近い回答を得られるでしょう。つまりiPhoneは最強のブランドの一つ、ということになります。
僕が考えるマーケティングとは、自分のブランドをパワフルにさせるセグメントを決め、そこでのシェアを向上させることだし、ブランディングとはブランド価値をとにかく高めていく行為です。つまりこの二つは不可分な戦略行動であると僕は考えています。
ブランド価値を不用意に換金しようとするなかれ
ブランド価値ランキング、という指標が毎年発表されています。
"毎年300万人以上の世界中の消費者アンケート結果から集められるブランドデータと、各企業の財務実績や業績の分析を組み合わせたブランド評価調査" だそうで、全セグメントにおける総額勝負のランキングになっています。
トップ4を占めるのはGoogle、Apple、Amazon、Microsoft。そして中国のTencent、Facebookと続きます。MAGFA(Microsoft、Apple、Google、Facebook、AmazonのIT大手5社)と言ったり、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon。つまりMicrosoftをのぞくIT大手4社)と言ったりしますが、IT大手企業のブランド力が他の分野を圧倒していることがわかりますが、8位にマクドナルドが入っているのもなかなかに興味深いところです。
つまり、ブランド価値そのものは、総額で表す限りラグジュアリーブランドであろうがファストフードブランドであろうが関係ないということです。
大手広告代理店「WPP」の調査・コンサルティング業務を担うカンター・グループが、『BrandZ Top 100 Most Valuable Global Brands Ranking 』(世界のブランド価値ランキング 2018年度版)を公開した。
BrandZ(ブランジー)は、毎年300万人以上の世界中の消費者アンケート結果から集められるブランドデータと、各企業の財務実績や業績の分析を組み合わせたブランド評価調査で、今年が13回目となる。
さて、ブランドの価値を数字化(金額で評価)できるということは、ブランド価値は有限資産ということです。金額で示せるのであれば、それをどのくらい使っていいか、ということが計算できます。
もちろんブランド価値は他者による測定指標であり、そのまま全額換金できるものではありません。それは株式市場における企業価値と同じで(例えば社長が不用意に株式を放出しようとすれば企業価値そのものが下がってしまいます)ブランド価値も間違った方法で換金しようとすればたちまち暴落してしまいます。いたって扱いが難しい資産なのです。
例えばランキング8位に入ったファストフードの雄マクドナルドが、高級レストラン「ゴージャスマック(仮称w)」なる業態にチャレンジしたとします。マクドナルド社がこの高級レストランに自社ブランドとは全く異なる名称をつけたとすれば(≒それがマクドナルドと関係がないと消費者に思わせたとしたら)これはマクドナルド・ブランドを使ったことになりません。
しかし、これが上記のように「ゴージャスマック(仮称w)」と名付けたとしたら、それは一般消費者にとってもマクドナルドの関係事業であることが明白になります。
これはマーケティングの第一人者フィリップ・コトラーさんが分類したブランド戦略のうち、ブランド拡張にあたるでしょう。低価格で手軽に食べられるファストフードから、高級食材を使ってコストも高い高級レストランへの進出は既存の”飲食”というカテゴリーにおいては同じでも、客層もイメージも全く違うので、ライン拡張とは呼べないと思います。
例えばマクドナルドが「マックヌードル(仮称w)」という名のワンコイン(500円)のラーメンチェーンを始めたとしたら、ライン拡張と言えるかもです。
何れにしても、既存のブランドを別の商品カテゴリーに適用しようする手法は相当に一般的で、どの企業も大抵はこの戦略を採用します。
既存カテゴリー | 新規カテゴリー | |
---|---|---|
既存ブランド | ライン拡張 | ブランド拡張 |
新ブランド | マルチブランド | 新ブランド |
しかし、思い出してください、先述の簡単なブランドパワーの計測方法を。
マクドナルド=ファストフード。マクドナルド=ハンバーガー。マクドナルド=早くて安くて美味しい、です。マクドナルドというブランドに、高級とか高い、豪華、という意味合いを感じ取る消費者はほぼいない。また、いないからこそ、マクドナルドというブランドはパワフルなのです。
スシローで一貫5000円のネタが売られたとしたらどう感じますか?ユニクロで一着100万円のダウンコートが売られていたらどうしますか?逆に、レクサスで100万円の軽自動車が発売されたとしたら?ブランドというのは我々消費者や顧客の心に刻まれた、特定の商品や企業に対する印象、イメージです。それを逸脱して、違和感を持たせるようなことをしてしまえば、それは裏切りであり、それまで培ったブランドイメージを破壊する行為です。
パワフルなブランドを作れるセグメントを探すと同時に、十分な大きさの市場を持つセグメントであることを確認するのがマーケティングの第一歩=ポジショニングです。そのセグメントにおける最強のブランドを育てる行為がブランディングであり、さらに育ったブランドを上手に換金するのがマーケティングのゴールとなる、と僕は考えます。
当社の例で言えば、
急速に成長するコンテンツマーケティング市場における、早くて安くて使いこなせるマーケティングテクノロジー(マーテク)を提供するファストマーテク(ファストフードやファストファッションと同じ意味合い)というセグメントを選び、そのセグメントのトップカンパニーになろうと考えました。(このセグメント自体が数千億円市場であると確信したためです)
多くのマーテクは難解で、扱うためには高度なスキルを要求することが多いのに対して、クライアント側ではデジタル化するマーケティングを担当できる人材やリソース、予算の不足に直面しているのが現実です。
そこで当社は、特別な知識やスキルを持つスタッフを揃えられない企業や、多大な予算を捻出できない企業であってもデジタルマーケティングをすぐ始めることができるように、あくまで扱いやすくリーズナブルなコストで採用いただけることを目指して、プロダクトを開発し、社内の体制も整備しています。
当社ではこのセグメントにおけるブランドイメージを高めることに腐心すると同時に、このポジショニングを頑なに守ろうと思っています。
少年老い易く学成り難し、と言いますが、ブランドも熟成させるためには時間が必要ですが腐らせるのは一瞬です。
世間一般において、自らの強いブランドを過信して、いたずらにブランドを他のカテゴリーやラインに適用して拡張したがるマーケターや経営者はとっても多い。
フェラーリのSUV市場参入を強く否定した(フェラーリの親会社の)フィアットのマルキオンネCEOの毅然とした態度を見習うべきだと思う今日この頃です。フェラーリブランドの価値は、スポーツカー専業メーカーであるからで、ラグジュアリーカーメーカーというセグメントとは別、ということをわかってるんです、マルキオンネさんは。