東京海上ホールディングス 松本洋輔氏 講演
まずはじめに、東京海上ホールディングス株式会社の松本洋輔さんにお話しいただきました。
松本 洋輔(まつもと ようすけ)
東京海上ホールディングス株式会社
ホールディングスデジタル戦略部 企画グループ
マネージャー
銀行でATMにする新規サービス企画、通信会社でQR決済を立ち上げ後、2022年11月に東京海上ホールディングスに入社。現在は社内の様々な新規事業/サービスの立ち上げに従事。
2022年4月、中途採用で東京海上ホールディングス株式会社に入社された松本さん。それまでの経歴で携わってきたデジタル領域から一転、門外漢の宇宙事業で新規サービス立ち上げのプロジェクトリーダーを命ぜられ、宇宙をテーマにしたオウンドメディア「SpaceMate」を立ち上げられました。今回のセミナーでは『オウンドメディアを活用した自社サービスの魅力化について』と題し、東京海上と宇宙の関係、そして同社が宇宙に関するオウンドメディアを立ち上げた意味についてお話しいただきました。
私たちについて
まずはじめに松本さんは、今回のセミナーのゴールとして、「東京海上=宇宙企業」に見えるようになることを掲げました。
1887年に海上保険を祖業として創業した東京海上は、日本で初めて自動車保険を作った歴史を持っています。今でこそ当たり前のように普及している自動車保険ですが、今から約120年前の明治時代、自動車がまだ100台ほどしかなかった当時としては、かなり珍しい存在だったことでしょう。
そしてこの2024年3月、宇宙旅行にまだ数人しか行かない時代に、東京海上は宇宙旅行保険を作りました。120年前の自動車保険と同じように、今の時代に宇宙旅行保険というとかなり珍しい存在ですが、100年後を考えて商品化したと松本さん。「今後は宇宙にどんどん進出していきますので、東京海上は宇宙の企業だと覚えていただきたい」と力を込めました。
宇宙の現在地と将来性
そこで気になってくるのが、東京海上が宇宙旅行保険に進出した背景です。
世界の宇宙ビジネスの市場規模は、2020年に約44兆円だったのが、2040年には約120兆円にまで成長すると言われています。日本においても、この3月に政府が3,000億円の支援を行い、多くのスタートアップ企業が参入するなど、ビジネスの基盤が整いつつある状況です。
実は宇宙開発において、日本は世界の中でも進んだ国と言われています。たとえば宇宙の玄関口となる「宇宙港」が整備されている国は世界でも12ヶ国に限られるのですが、その中で日本では民間主導で4港(JAXA分も合わせると6港+α)も開発が進んでいるのです。
また大型ロケットを打ち上げる宇宙センターは、ロケットが核ミサイルの技術で作られている関係もあり、砂漠の真ん中など一般人からは見ることができない場所にあるのが大半です。その点、日本の種子島宇宙センターは、近くの公園からロケットの打ち上げを確認できる非常に開かれた存在になっています。日本は、その高い工業技術とあわせ、ロケット開発において最適な環境をもった国と言えるのです。
それでは、実際に宇宙に行くにはどれくらい費用がかかるのでしょうか。
いま宇宙の入口まで行く旅行は、だいたい2,000万円くらいかかると言われています。それが2030年には約100万円で行けるようになると予想されています。時代が進めば、技術の進化によってコストが下がっていくのです。このあたりの話はSpaceMateの記事で紹介されています。
「宇宙旅行というのはまだまだ先の話と思われていますが、実はもうかなり現実的になってきているのです」と松本さん。「私が子供の頃に見たドラえもんのテレビ電話(糸なし電話)や、バック・トゥ・ザ・フューチャー2のビデオ会議は夢の世界でしたが、いまやリアルに行われています。これと同じように、今はまだ夢だと思っている宇宙旅行が、あと10年20年すれば間違いなく実現すると考えています」という話を聞くと、宇宙をより身近に感じますね。
宇宙✕東京海上✕オウンドメディア
続いて松本さんは、宇宙ビジネスに取り組む東京海上がオウンドメディアを始めた背景と、その役割について話しました。
松本さんたちのチームではプロジェクトの立ち上げにあたり、「宇宙といえば、どの企業を思い浮かべますか?」というアンケートを取ったそうです。その結果、対象となった約2,000人のうち東京海上を選んだのはわずか数名。間違えてボタンを押したような人たちだったと言います。一般の人の中では、東京海上に宇宙のイメージはないということが明らかになったのです。
その一方で、社内におけるイメージは異なっていました。東京海上では1970年代からロケットに対する保険を提供しており、国内の宇宙保険分野では第一人者であるという認識がありました。また保険という仕組み自体、イギリスからインドへの航海における海上保険が原点であり、それは挑戦者を支援するための存在でもあります。宇宙旅行保険もその延長で、宇宙への挑戦者を応援する事業として貢献している認識があるのです。
このように、社内と社外では見え方が180度異なることが分かりました。
社内から見ると50年以上前から宇宙開発を支える企業でも、社外から見ると損害保険の会社に過ぎません。社内では宇宙産業の発展に寄与している自負があっても、社外からはまったくそのように見えていません。また保険という商品自体についても、社内では挑戦者を応援する仕組み、リスクを分散する仕組みという認識がありますが、社外では手続きが面倒といったイメージを持たれているわけです。
「この情報のギャップ、温度差を埋めるために情報を伝えていくのが、オウンドメディアの役割だと考えています」と松本さん。「宇宙には無限の可能性があって、間違いなく成長する市場です。その成長が、将来の東京海上の成長につながると信じ、まだまだ伝えきれない東京海上の宇宙に対する想い、本気度を伝えたいと思っています」と結んで講演を終えました。