マニュアルでもなくルールブックでもなく、プレーブック。こうしたらうまくできるよ≒マニュアルやこうすることがルールだよ≒ルールブック という教えではなく、勝つためにはこうしなさい という、ゲームに勝つための方法を記したもの、それがプレーブックです。
こう聞けば、ヤバい、うちの社員マニュアルを早くプレーブック化しなきゃ!と思いませんか?思わないとしたら、あなた、リーダーとしては失格ですよ笑
プレーブックとは
最近、プレーブックなる言葉をよく耳にする方が多いと思います。東京五輪参加の海外アスリートたちをお迎えする選手村における“生活上のマニュアル”をプレーブックと呼んでいるからでしょうか。
選手村用のそれについては、諸処の理由から触れることはこれにて留めておきますが、最近見たNetflixの『暴君になる方法』というドキュメンタリー?内にもプレーブックという言葉が出てくるので、とても気になっていました。
このプレーブックとは、長年の経験則に基づく定石が書かれた戦略集です。元々はアメリカンフットボールのフォーメーション毎に練られた戦略・戦術をまとめたもののことを指すようですが、いまでは主にビジネスの現場で“こうすれば勝てる、売れる”という鉄則やセオリーを言語化したモノのことをそう呼ぶようになりました。
ルールブックが六法全書とすれば、プレーブックは判例集のようなものでしょうか。
マニュアルがゲームに参加する初心者向けのモノであるとすれば、プレーブックはプロ向けの実戦テクニック集のようなものかもしれません。
ちなみにこの『暴君になる方法』とは、歴史に名を残した悪名高き独裁者たちが、その絶大な権力を勝ち得た、あるいは維持できた方法をまとめたプレーブックを紹介、というブラックユーモア的な作品で、一見の価値ある素晴らしい作品です。
(この作品の中で、最も心に残ったところが二つ。一つは、暴君になるための第一ステップは、自分ならなれると信じること、必ずできると確信すること、自分は特別な存在だと信じることだ、ということです。自信がない人間には何も成せないし誰も惹かれない。まさにその通り。
二つ目は、自分はヒトラーのような暴君に惑わされるはずがないと思っているかもしれないが実際にそんな環境に置かれたら必ず心酔することになる、絶対に!という言葉です。魔法が覚めるまでの期間の違いはあれども、悪のカリスマの力を侮ってはいけない、ということです。余談ですが)
マニュアル≒初心者向け、プレーブック≒熟練者向け
なにがしらの製品を作っている組織であれば、まず間違いなくその製品用のマニュアルはお持ちでしょう。例えば、家庭用の調理器具を提供するなら、誰でもとりあえずその器具を使いこなしていただくことが重要で、上手な使い方を分かりやすく記載したマニュアルはとても大事です。
しかし、もし、あなたのその製品がプロのシェフ用に提供される製品だったなら?事故を起こさず無難にお使いいただくためのマニュアルは、あまり意味をなさないかもしれません。そんなこともうわかってるよ、ふざけんな、と相手を怒らせてしまうかもしれません。
言ってみれば、マニュアルとは自動車の教習所の教えみたいなものです。例えば、僕はオートバイに乗りますが、教習所では右のブレーキレバーも、左のクラッチレバーも4本指(ハンドルバーを握っている親指以外の4本)でしっかり握れと教えられます。しかし、実際には熟練ライダーのほとんどは(モーターサイクルレーサーのテクニックの影響かもしれませんが)2本ないし3本指で操作します。正規のマニュアルとは違うかもしれないけれど、公道の実環境に合わせた、より実践的な乗り方を選択するのです。
ちなみにプレーブックには二つの意味・目的があります。この教習所の例で言うなら、ライダーに教えるための実戦テクニック集という考え方と、教習所の教員向けのプレーブックです。
つまり、自社のスタッフ(≒社員)向けのプレーブックの充実もまた必要だし、重要です。
プレーブックは、バイク乗り向けならば より安全により速く走るための実践的なテクニックを教えます。マニュアルに書いてあることは当然わかってるけど、敢えて“勝つための(レーサーでもない普通のオートバイ乗りに勝ち負けなどないことはもちろんわかってますよ!)”乗り方を教えてくれる、それがプレーブックの内容だし、プレーブックを作る意味になります。
関係ないけど、ジェニファー・ローレンスが世に出るきっかけとなった名作映画『世界にひとつのプレイブック』も、いまなら 心に傷を負った2人が幸せになる方法=プレイブックのことだったんだな、とはっきり分かりますね。
ちなみに当社(株式会社リボルバー)は、趣味でメディア運営をしたりそこそこの出来で満足してくれる初心者向けのサービスではなく、あくまで最高のサービスを求めるプロ向けの製品を提供する会社です。
であれば、考えるべきは分かりやすいマニュアル作り(もちろんそれも大事ですが)よりも、プロを満足させられるだけの知見と経験を備えたプレーブック作りに取り組むべきだ、そうでなくてはならない!と最近強く思っています。
マニュアルよりプレーブックを重要視するという考え方は、カスタマーサポートよりカスタマーサクセスを,という考え方にとても近い、そう思うのです。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。